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「何時だ? うお、済まねえ、すっかり長居しちまった。白浜ちゃんが俺を待ってるぜ」
それは夕方から始まるニュース番組のキャスターさんのお名前です、毎日観ていらっしゃるのですね。
都築さまは、飲みかけの三杯目のコーヒーを一気飲みして立ち上がりました。
「こちらも気付かず申し訳ありません」
「なあに、謝るのはこっちのほうさ。仕事の邪魔をして悪かったな」
「いいえ、お気になさらないでください」
都築さまと過ごす時間は、無駄ではないと思います。
ジャケットを正して、禿頭を山高帽に隠して、都築さまは笑顔で私を見ます。
「じゃあ、また来るよ」
晴れ晴れとした、明るい笑顔でした。
「はい、お待ちしてております」
私は出入口までお見送りします。
店を出た都築さまは、帽子を直しながら、空を見上げました。
「おお……一番星だ」
都築さまの目線を追って私もそちらを見ました。
アーケードの屋根の間の、夕暮れの空に燦然と輝く星があります。
藍色と柿色の合間にたったひとつだけ、瞬きもしないその星は、淋しさを感じながらもそんなことないと意地を張っているようにも見えました。
「綺麗だなあ……あんな星を見れたなら、明日はいいことがありそうだ」
「そうですね」
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