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『仕立屋の……父がご迷惑をおかけしていたようで。時々お喋りに行くんだと聞いてました。私が買ってきた土産のケーキも美味しかったと言っていたぞと自慢げに……』
消え入りそうな声でおっしゃいます。
「迷惑だなんてそんな……! あの、お亡くなりになったと……」
『ええ、元々心臓が悪かったんです。亡くなったのはそちらに伺った翌日の朝だったようですね。父は日記を書いていたんです、最後の日付はその日でして……父は死期を予感していたのでしょうか』
途中、何度も鼻をすすっておられました。
『綺麗な一番星を見た、俺を迎えに来たのかと思えるほど綺麗だった。それならようやくお母さんのところへ行けるな……と』
ああ、なんて事でしょう──一緒に空を見上げたあの日が、最期だなんて──!
『パジャマのままで、キッチンで見つかりました。死に顔は穏やかでしたよ』
そんな言葉だけは優しく聞こえました。
私は礼を述べ、通夜の場所を聞いて電話を切りました。
折しも夕暮れ時、まだあの一番星は見えるでしょうか。
店を出て空を見上げました。
先日よりも暗い空が出迎えました、あの日よりも多くの星が瞬いています。
お迎えだなんて──そんなお気持ちで見上げていたのだとはつゆほどにも思いませんでした。
明日はいい事があるとおっしゃっていたのに──都築さまのいい事とは、お迎えのことだったのでしょうか。
明日は初めて、私から都築さまを訪ねさせていただきます。
終
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