第七話 隠した教え

6/13
前へ
/161ページ
次へ
「なんだ兄さん、知っていたのか」 「親父は騙せても、私は騙せなかったようだな」 「兄さんは、俺のことを警戒しているからだろ。心配しなくても、次代のサイラス卿を狙ってはいないってのに」  随分砕けた口調だが、これがマルクの素なのだろう。  いや、口調を気にしている場合ではない。今の口ぶりでは、ディオンの指摘は図星……ということか。 「そんなに帝国に敵意を見せていたお前が、どうしてあの娘を(めと)ろうと思うんだ?」 「もう帝国は滅びたし、あの娘に恨みはない」 「嘘をつけ。星姫アスティリアーナだぞ?」 「……………」  マルクの沈黙が気になって、アスティリアーナは胸に手を当てた。相変わらず、鼓動が忙しなく打っている。 「お前は打算なしで動く男じゃないだろう?」  なじるような口調にも、マルクは動じなかった。 「答えるつもりはない、か。まあいい」  ディオンの声が近づいたことに気づいて、アスティリアーナは慌てて扉から離れて、速足で廊下を歩き出した。予想通り、背後で扉の開く音が響く。  焦りと混乱で、冷や汗が止まらなかった。 (リギル、助けて)  よりによって、どうして今夜いないのだろう。  いないとわかっているのに、僅かな希望にすがって彼の部屋に行ってみる。  鍵はかかっていなかったが、がらんとした部屋を見てアスティリアーナはしゃがみこみそうになった。  そして、ハッと気づく。 (反乱軍……)  反乱軍には、リギルもいたのだ。むしろ中心となって、戦ったはずだ。それなら、反乱軍に協力したマルクのことを知っていてもおかしくない。  思えば、マルクに会った時からリギルは変だった。リギルの方は、マルクを知っていたのだ。  だけど、それならどうして何も言わずに町に行ってしまったのだろう。  せめてマーサと相談しようと決めて、アスティリアーナはリギルの部屋を出たが――  廊下に、マルクが立っていた。  びくりとして、アスティリアーナは後ずさる。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加