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ふたりきりで話しませんか、と誘われてアスティリアーナはためらいがちに頷いた。
心配そうなマーサと、顔を伏せ続けるリギルを残して、アスティリアーナはマルクの導きに従って、バルコニーに出た。
バルコニーからは、城を囲む森が見下ろせた。こうして見ると、随分高いところにいるのだと実感してアスティリアーナは微笑む。
「森の深い場所でしょう、サイラス領は」
「……そうですね」
「アスティリアーナ様。父と兄の非礼をお許しください。きっとあなたは、庶子の私と結婚なんて嫌でしょう――」
「そんなことないですよ」
アスティリアーナからは、マルクは誠実な青年に見えた。
彼が共に生きてくれるというなら、悪くないだろう。
ちらりと、リギルの顔が頭に浮かぶ。
(リギルは……一緒にいられないひとよ)
ルクリウス帝国は、リギルを苦しめた。リギルは帝国に報復した。
帝国の象徴のような星姫アスティリアーナと、反乱軍の若き戦士リギル――。どうあっても、ふたりが一緒にいられる未来なんてないのだ。
本来なら反発して、憎み合う境遇だった。
「……姫?」
マルクに声をかけられて、アスティリアーナは姿勢を正した。
「ごめんなさい。ぼんやりしてて……」
「いえ……。それで、姫に異論はないのですか」
「私は、もちろん。それより、あなたはいいのですか?」
「私……ですか」
問われると思っていなかったのか、マルクは眉を上げた。
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