第六話 敬虔な次男

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 ふたりきりで話しませんか、と誘われてアスティリアーナはためらいがちに頷いた。  心配そうなマーサと、顔を伏せ続けるリギルを残して、アスティリアーナはマルクの導きに従って、バルコニーに出た。  バルコニーからは、城を囲む森が見下ろせた。こうして見ると、随分高いところにいるのだと実感してアスティリアーナは微笑む。 「森の深い場所でしょう、サイラス領は」 「……そうですね」 「アスティリアーナ様。父と兄の非礼をお許しください。きっとあなたは、庶子の私と結婚なんて嫌でしょう――」 「そんなことないですよ」  アスティリアーナからは、マルクは誠実な青年に見えた。  彼が共に生きてくれるというなら、悪くないだろう。  ちらりと、リギルの顔が頭に浮かぶ。 (リギルは……一緒にいられないひとよ)  ルクリウス帝国は、リギルを苦しめた。リギルは帝国に報復した。  帝国の象徴のような星姫アスティリアーナと、反乱軍の若き戦士リギル――。どうあっても、ふたりが一緒にいられる未来なんてないのだ。  本来なら反発して、憎み合う境遇だった。 「……姫?」  マルクに声をかけられて、アスティリアーナは姿勢を正した。 「ごめんなさい。ぼんやりしてて……」 「いえ……。それで、姫に異論はないのですか」 「私は、もちろん。それより、あなたはいいのですか?」 「私……ですか」  問われると思っていなかったのか、マルクは眉を上げた。
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