第六話 敬虔な次男

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「どうした?」 「ちょっと、リギルに報告したくて」 「ああ……。入れよ」  促すと、頷いてアスティリアーナは部屋に入って来た。  しまった、とリギルは今更後悔する。  婚約が決まった女を――いやそれ以前に未婚の女を部屋に入れてふたりきり、というのはまずいだろう。  家では気にしていなかったから、油断が出た。仮にもここは貴族の城だ。  慌てるリギルをよそに、アスティリアーナはすたすたと窓辺に近づく。 「マルク様と話したの。彼はとても、誠実な態度だったわ」 「……そうか」  じりじりと、心が妙に焦れつく。  マルクが誠実なら、いいことなのに。 「多分、これで決まると思う。マルク様が住んでる、サイラスの別のお城で暮らすことになるわ」  アスティリアーナの横顔を、窓から差し込む陽の光が照らす。白い顔に、青みを帯びた黒い髪。何より、けぶるような美しい目。  本当に、絵に描いたようなお姫様なのだ。  ひととき、共にいたことがまるで奇跡のようだった。  彼女から目を逸らそうと、リギルはうつむいた。 「変ね」  アスティリアーナがぽつりと呟き、顔を上げる。  彼女はこちらを、泣き笑いのような表情で見つめていた。 「これで安心していいはずなのに。あなたと、離れ難いの」  そう言ってすぐ、アスティリアーナは慌てたように片手で口を塞いで、頬を染めた。  時折、勝手に口から言葉が零れ出ることがある。さっきのは、そういう瞬間だったのだろう。
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