第六話 敬虔な次男

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「どうして」  冷たい声が出た。アスティリアーナは怯えたように身をすくませたが、すぐに口を開く。 「……リギルはとても、優しくしてくれたもの。いっぱい、助けてくれたわ。私、リギルの手ってすごいと思うわ。何でもできるもの。戦えるし、料理できるし、馬車を動かせるし、薪割はできるし……」  アスティリアーナは、とんちんかんにリギルを褒めてきた。思わず、苦笑が漏れる。  彼女は何を言いたいのだろう? わかるのは――彼女が、リギルにほのかな――情を抱いているのであろう、ということ。  しかし、これを受け入れるわけにはいかない。そんな淡い想いで、アスティリアーナの人生を台無しにしてしまっては、いけない。  アスティリアーナは、リギルへの憎しみに気づいていないだけかもしれないのだから。  リギルは、早鐘を打つ心臓を意識した。 (俺も大概、青いな)  敢えて冷静なふりをして、リギルは彼女に一歩近づく。  そのひんやりした薔薇色の頬を、両手で包み込む。美しい目を覗き込んで、リギルは囁く。 「お前の褒めてくれたこの手で、俺はお前の兄弟を戦場で殺した。お前の父親を処刑に追い込んだ」 「――!」  アスティリアーナは愕然とし、唇を震わせた。追い詰めるように、リギルは更に続ける。 「俺は、お前の国を滅ぼした」 「そんなこと……言わないで……」  透明な涙が、彼女の目から零れ落ちる。頬をすりつけて、その液体のなまあたたかさに陶然(とうぜん)として。  それでも、突き放す。 「ここで幸せになれよ、アスティリアーナ」
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