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マーサはドレスを持って帰ってきた。
「今日はこれを着てほしい、とのことです」
「まあ、きれいなドレスね」
アスティリアーナはマーサの手から、ドレスを受け取った。薄紫色のドレスの優美さに目を細めて、抱き締める。
「あと――あの少年ですが……一応、サイラス卿に彼の夕食は部屋で、と言っておきましたが。実は、彼は城外に出たらしくて」
「え!?」
アスティリアーナの手からドレスが滑り落ちて、床に落ちる前にマーサが慌ててそれを受け止めた。
「リギル、もう帰ってしまったの!?」
別れも言わずに、行ってしまったのだろうか。せめて最後にありがとうと、言いたかった――。
「落ち着いてください、姫様。買い物に行ったらしいです。だけど城下町は少し離れていますんでね、もしかしたらあちらに泊まるかもしれない、ということでした」
「……なんだ、そうなの」
ひどく安心して、アスティリアーナは息をついた。
だが、今夜はリギルがいないかもしれないということで、嫌が応にも不安が募った。マルクは誠実に見えたが、完全に信頼できると決まったわけではない。
「買い物って、何を買いにいったのかしらね」
「さあ――」
ふたりとも、さっぱり予想がつかなかった。
「さ、姫様。着替えて夕食に臨みませんと」
「はいはい。マーサ、手伝ってちょうだいね」
アスティリアーナは着替えようと、改めて薄紫色のドレスを見下ろした。
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