第七話 隠した教え

3/13
前へ
/161ページ
次へ
 マーサはドレスを持って帰ってきた。 「今日はこれを着てほしい、とのことです」 「まあ、きれいなドレスね」  アスティリアーナはマーサの手から、ドレスを受け取った。薄紫色のドレスの優美さに目を細めて、抱き締める。 「あと――あの少年ですが……一応、サイラス卿に彼の夕食は部屋で、と言っておきましたが。実は、彼は城外に出たらしくて」 「え!?」  アスティリアーナの手からドレスが滑り落ちて、床に落ちる前にマーサが慌ててそれを受け止めた。 「リギル、もう帰ってしまったの!?」  別れも言わずに、行ってしまったのだろうか。せめて最後にありがとうと、言いたかった――。 「落ち着いてください、姫様。買い物に行ったらしいです。だけど城下町は少し離れていますんでね、もしかしたらあちらに泊まるかもしれない、ということでした」 「……なんだ、そうなの」  ひどく安心して、アスティリアーナは息をついた。  だが、今夜はリギルがいないかもしれないということで、嫌が応にも不安が募った。マルクは誠実に見えたが、完全に信頼できると決まったわけではない。 「買い物って、何を買いにいったのかしらね」 「さあ――」  ふたりとも、さっぱり予想がつかなかった。 「さ、姫様。着替えて夕食に臨みませんと」 「はいはい。マーサ、手伝ってちょうだいね」  アスティリアーナは着替えようと、改めて薄紫色のドレスを見下ろした。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加