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食事は楽しかった。サイラス卿は陽気に喋っていたし、マルクも気を利かせて何度もアスティリアーナに話を振ってくれた。ディオンだけはあまり喋らなかったが、アスティリアーナは気にしないことにした。
彼が領主になった後が心配だが、マルクと結婚すれば離れた城に暮らすことになるのだし、問題ないだろう。
部屋に戻って寝支度をした後、アスティリアーナはリギルはまだ戻っていないのだろうかと心配になった。
マーサは疲れたと言って、湯浴みをしてすぐに眠っていた。
アスティリアーナは髪をくしけずりながら、心を決めた。
(見にいくだけ)
櫛を置いて、アスティリアーナは寝間着にマントを羽織った。リギルの部屋は近いから、この格好でも大丈夫だろうと判断した。
扉を開けて、廊下に出る。松明が灯されているとはいえ、城の廊下は薄暗い。
アスティリアーナは、心持ち速足で歩いていった。
ふと話し声に気づいて、壁に身を寄せる。話し声と、足音は近づいて来る。ちょうど柱の影があったので、そこに隠れることにした。
別に、隠れる必要はないのだが。こんな格好で廊下に出ていることを咎められるかもしれないと思うと、煩わしかった。
「……それで、どうなんだ」
「兄さん。ここは彼女の部屋に近いのです。話は、あとで」
「ああ、そうだったな」
ディオンとマルクが肩を並べて、歩いてきたのだった。
アスティリアーナは息を殺して、彼らを見送る。
(彼女の部屋って……。私の話をしようとしているの?)
逡巡した挙句、アスティリアーナは足音をさせぬようにゆっくり歩いて、彼らの後を追った。
しばらくして、彼らはとある部屋に入った。アスティリアーナはそっと扉に近づいて、聞き耳を立てる。
心臓がどきどきしすぎていて、心音が聞こえてしまわないが不安なほどだった。もちろん、聞こえるわけがないとは、頭ではわかっているのだけれども。
「お前は、帝国を憎んで反乱軍に力まで貸していただろう」
ディオンの言葉に、アスティリアーナは凍りつく。
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