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どうしたら良い? ついて行って良いのか? 親父のメールでも毒島と一緒に来いと言っていた。しかし、躊躇してしまうのはなぜだろう。迷うことなどなかったはずだ。この男が来るまで自分でここから出ようとしていたというのに。疑心暗鬼が募る。
「ここにいて何になる? 死ぬまでここにいるつもりか?」
毒島のいう通り、ここにいても何にもならない。それはわかっている。わかっているのだが…。
「とりあえず、表に出ろ。水と食料を持てるだけ持っていけ」
毒島はそう言うと、一人で先に出ていった。
ここに残るか? それとも、よくわからない男について行くか?
俺はこの三十日間を思いだす。一日過ぎる度に対数的に人が死んでいく日々。悲しみに明け暮れ、どうしようもない不安が募り、意味のわからない怒りを抱えて生きて来た。それでも自分は何もできない無力感、ただネットニュースをみては寿命が尽きるのを待つ日々だった。
正直、毒島という男はどういう人間かはわからない。しかし、親父は毒島と一緒に来いと言ったのだ。親父を信じよう。行こう、行くしかないんだ。
俺は足元に置いてあったリュックを背負う。水が入った500mlのペットボトル4本と、カロリーメイトや乾パンなどの食料をパンパンに詰めたので、肩にずっしりと重さを感じる。
「おい、まだか?」
外から毒島の大きな声がする。
「もうここには戻れないな」
一人つぶやいた。
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