19人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は最後に机の上に置かれた写真たてをリュックに押し込みシェルターを出た。お袋が生きている時にディズニーランドで撮った親父とお袋と俺とが三人揃った唯一の写真だ。お袋は俺が七歳の時に脳腫瘍で亡くなった。それ以降親父は笑顔を見せなくなった。これがここに最初から置いてあったのも親父の準備の良さだと思う。最後まで希望を捨てなかったのはこの写真があったからだと言っても良い。
梯子を登り出口から改めて振り返りシェルターを見る。よくこんなちっぽけな部屋に三十日も住んでたなぁとしみじみと思う。
「早くしろ!」
「今、行くよ!」
まったくせっかちな男だ。少しは感傷に浸らせてほしい。とりあえず今は、毒島の言う通り親父の元に向かおう。きっと何かがわかるはずだ。
玄関から家を出ると思ったほどあたりは荒廃せず以前のままなのに驚く。こういう状況になったらあらゆる犯罪や破壊行動が起こるものだと思っていた。
毒島を探すとどこかの会社の社長が乗るような高級そうな黒塗りの外国車の前に立っていた。
「乗りな」
毒島は向こう側の席を指差す。
「あっ、はい」
道路側に回りドアを開け車に入り、リュックを後部座席に乗せる。
「あれ?」
俺は違和感に気づいた。目の前にハンドルがある。そういえば、この車は外国車、左ハンドルだった。
「免許持ってるか?」
「まぁ、夏休みに取ったばっかりですけど」
「じゃあ、大丈夫だな」
「えっ、ちょっと待って!」
毒島はそう言うと、カーナビに目的地を入力した。
「じゃあ、頼むわ」
こいつ、俺に運転しろと言っているのか。
最初のコメントを投稿しよう!