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甘すぎる香りが4年1組の教室から広がってくる。 校庭に咲いている金木犀の花を、みんなが摘んで大切に持ち歩いているからだ。 外では柔らかい香りでも、狭い教室に集まれば、それは心地よいものにはならない。 ただでさえ、今日は気分が悪いのに、こんなことになるなんてなんてついてないんだろう。 僕のことに何も気が付かない隣の席の女の子が、ねえ、いい匂いでしょ?と金木犀の小さな花を近づけてくる。 なんでこんなにこの子はいろんなことが見えてないんだろう。この香りの強さにも、僕のことにも……。 「別にいい。もう帰るよ」 もう授業は終わった。逃げるようにランドセルを背負い、教室を出る。 校門から出ようとすると、どこからか虫の音が聞こえてくる。 すぐそばの花壇で花の手入れをしていた先生が嬉しそうに、秋だね、と僕に話しかけてくる。 「先生、さようなら」 一言だけそう伝えると、走って通学路に向かう。 虫の話なんてしたくない。 リーン、リーンなんてそんなかわいいものじゃない。 はっきりいって耳障りだ。
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