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何十匹もいろんな虫が鳴いているのに、一瞬だけぴたりと止むときがある。けれど、また誰かが言い出したかのように一斉に鳴きはじめるのがどこか不気味で仕方がない。 そこから離れていても、その音は頭の中でずっと響いてくる。 なんでその音をみんな好きなのか分からない。 耳を押さえながら歩いていると、山が真っ赤に染まっているのが見えた。落ち葉が舞い散り、歩道も車道も赤や黄色に染まっている。 下の学年の子達が、僕を追い越し、はしゃいで足踏みしている。 「葉っぱのじゅうたんだー!きれい!!」 誰かが嬉しそうに秋の歌を歌っていたけれど、落ち葉は足の裏にペタペタと張り付いてくる。体中にまとわりつくみたいで、僕はこの景色を喜んで見る気になれない。 紅葉した木々は苦手だ。穏やかな緑色だったのが、怖い位にそれぞれの色を訴えてくる。 こっちを見てと言わんばかりに。 今日は特別な日なのに、誰もそのことに気が付いてはくれない。 でも心のどこかでは、何があったかは触れてほしくない。 今日はお母さんの命日だ。 写真が趣味だったお母さんは秋の風景を撮りに行って、帰りの運転中に事故に遭った。 僕はいつもお父さんの言葉が浮かんでは消える。 『新しい車に買い替えておいたら、もしかしたら……』 僕も同じだ。最新式のいろんな機能がついている車だったら、事故なんか遭わなかったかもしれない。 そう思っていたのに……。
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