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部屋に残された検査担当者は、別室で先ほどの資料に目を通して、呟いた。
「金木犀の香り、虫の音、紅葉の画像……。人間が邪魔者扱いして、削除した人工的な機能が、皮肉なことに人間の心の奥底にまで染みついている」
さらに、その男は大きく溜息をついた。
「忌み嫌われ忘れ去られようとする車が、形を変えて、多くの運転手の内面に影響を及ぼしている。この状況をどうまとめて報告していくべきか……」
諦めてパソコンに向かい合うと、キーボードを打ち込む音だけがリズミカルに響く。
まるで誰かと会話をしているかのように。
(完)
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