約束

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
雪に包まれた町を見つめる。その景色は四角く切り取られている。 パシャ すぐに写真の出来を確認する。うん。結構いい感じに撮れた。 「撮れた?」 「うん。」 私はすぐ横から聞こえてきた声にぶっきらぼうに答える。もう一枚くらい撮ろうかな。 「もう一枚撮るんだったらさ、」 おっ。私の気持ちを読むとはなかなかやるな。私は心の中でそいつに賞賛の言葉を述べる。 「僕のこと撮ってよ。」 沈黙。心なしか気温が下がったような気がする。私は少しため息をついて、やはりぶっきらぼうに答えた。 「あんた映らないじゃん。」 「あははは…。やっぱりそうだよね…。」 そいつは無理して笑う。その姿の後ろに雪景色が透けて見える。そう。そいつは世間一般でいうところの幽霊。死んだのはつい2週間前。なぜか私にだけその姿が見えるらしい。早いとこ成仏してほしいけど、私にくっついて離れない。祟られるわけじゃないから別にいいけど。 「じゃあさ、今度はこっちの木を撮ってよ。なんか風流でてていい感じだし。」そいつは死ぬ前に遺書を書いたらしい。でも窓を開けっ放しにしていたせいで、風で飛ばされてその遺書は行方不明。自殺する時点でバカだと思うけどそのエピソードを聞いた私は呆れてしまった。 だからそいつの遺志はどこにも遺ってない。私が忘れてしまえば、誰の心にも遺らない。まるで雪のようにあっという間に溶けて消えてしまう。 「あのさ、」 私はそいつに目を向けずに呟く。そいつはしゃべるのをやめて、私の方を見つめる。 「今度、あんたの絵描いてあげる。写真は無理だけど、絵ならちゃんと遺るでしょ。」 「絵描けたんだ…。」 「美術は毎回5だよ。」 私にできることはそのくらいだ。でもそいつはゴシゴシと目元を拭う。 「ありがとう、お姉ちゃん。」 「大丈夫。ちゃんとのこしてあげる。」 私はもう触れることのできないたった1人の家族に向かって、優しく微笑みかけた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!