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雪に包まれた町を見つめる。その景色は四角く切り取られている。
パシャ
すぐに写真の出来を確認する。うん。結構いい感じに撮れた。
「撮れた?」
「うん。」
私はすぐ横から聞こえてきた声にぶっきらぼうに答える。もう一枚くらい撮ろうかな。
「もう一枚撮るんだったらさ、」
おっ。私の気持ちを読むとはなかなかやるな。私は心の中でそいつに賞賛の言葉を述べる。
「僕のこと撮ってよ。」
沈黙。心なしか気温が下がったような気がする。私は少しため息をついて、やはりぶっきらぼうに答えた。
「あんた映らないじゃん。」
「あははは…。やっぱりそうだよね…。」
そいつは無理して笑う。その姿の後ろに雪景色が透けて見える。そう。そいつは世間一般でいうところの幽霊。死んだのはつい2週間前。なぜか私にだけその姿が見えるらしい。早いとこ成仏してほしいけど、私にくっついて離れない。祟られるわけじゃないから別にいいけど。
「じゃあさ、今度はこっちの木を撮ってよ。なんか風流でてていい感じだし。」そいつは死ぬ前に遺書を書いたらしい。でも窓を開けっ放しにしていたせいで、風で飛ばされてその遺書は行方不明。自殺する時点でバカだと思うけどそのエピソードを聞いた私は呆れてしまった。
だからそいつの遺志はどこにも遺ってない。私が忘れてしまえば、誰の心にも遺らない。まるで雪のようにあっという間に溶けて消えてしまう。
「あのさ、」
私はそいつに目を向けずに呟く。そいつはしゃべるのをやめて、私の方を見つめる。
「今度、あんたの絵描いてあげる。写真は無理だけど、絵ならちゃんと遺るでしょ。」
「絵描けたんだ…。」
「美術は毎回5だよ。」
私にできることはそのくらいだ。でもそいつはゴシゴシと目元を拭う。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
「大丈夫。ちゃんとのこしてあげる。」
私はもう触れることのできないたった1人の家族に向かって、優しく微笑みかけた。
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