67話 黄昏の皇帝 ~ 優しい嘘もまた真実 ~

2/2
前へ
/39ページ
次へ
 リンデンス皇帝は、ロランの美しい『竜現体』の姿と異次元の強さを目の当たりにし、何より自分に対して力の一端を見せてくれた真摯な姿勢に対し、自らの完敗を認め謝罪した。  その後、ロランとリンデンス皇帝は、大きな風穴が開いた『融和の間』にて『気候変動を起こした場合、世界中に異常気象を発生させる事、気温を上昇させれば凍土が溶け凍土の上に建設された首都『ルキオン』を含むリンデンス帝国の建物の全てが地盤沈下してしまう事』を話し合い、ロランの農耕地にヒートパイプを使用し凍土を溶かすという提案を皇帝は『あっさり』承諾した。  話し合いも一段落しロラン達一行はまだ2週間ほどリンデンス帝国に滞在することから会談から5時間後に宴が催されることとなった。  宴ではロランとリンデンス皇帝は隣同士に座り、  「スタイナー卿、本日は客人のそなたに対して大変失礼な事をしてしまった。どうか許して欲しい…」   「いえ、こちらこそ。壁と天井に巨大な風穴を開けてしまいまして…」 と会話を弾ませていく。  「スタイナー卿、卿の事をロランと呼んで宜しいか?私の事はラグナルと呼んでくれ…」  「では、ラグナル皇帝。明日はヒートパイプの作り方を御教えしますので…」   するとロランの予期せぬ答えが返ってきた。  「それには及ばん。作り方を知ってしまえば我らは必ず他国に売りつけてしまう。我らには『職業神様の縛り』が効かないからな。ロラン殿の厚意を裏切ってしまう事になる。」  ロランはこの時、豪快だが義に厚い『(おとこ)』を皇帝に感じた。しばらくして酔ったリンデンス皇帝がロランに対して、  「ロラン殿、もし私が20年前に世界に進軍していたなら、我は世界皇帝になれただろうか?」  「ラグナル皇帝であれば、可能でしたでしょうね…」 ロランの言葉を聞き、ラグナルは毒気が抜けきった瞳で空中を見つめ、一言  「そうであるか…」 と呟いた。その皇帝の姿はロランに黄昏時の空を思い起こさせるのであった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加