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僕の好きな人は少し変わっていて、
彼女もまた、他に好きな人がいた。
彼女と出会ったのは、うちの大学に小ぢんまりとある、潰れかけの空写真サークルが初めて活動した日だった。
大学に入ったばかりの僕は、誰もいないであろうそのサークルに、暇つぶし程度の感覚で入った。
しかし、僕と全く同じ考えの人がやはり、いたようだった。
「こんにちわ」
大きく上向きなまつげと、キラキラした大きな目で見つめてくる女性がいた。
「空写真サークル、ここであってますか?」
にこやかに近付いてくる彼女は、華奢な身体つきをした、明るく小さな女性。
そういう印象だった。
「僕も今日来たばかりなんです。誰もいないみたいで。」
彼女はもう一度明るく笑った。
「そうですよね!私、空が好きなんですけど、まぁ誰もいないかななんて思ってて!」
「僕もそう思って入りましたよ。」
今思えば多分、この最初のやり取りだけで、彼女に惹かれていたと思う。
綺麗すぎない、それでもやっぱり美しいと感じる、不思議な女性だと思った。
大学2年目にも慣れてきた頃、彼女と僕はとても仲が良くなっていた。
活動終わりにどこかへ遊びに行ったり、休日には食事に行ったり、映画を見たりするくらい。
楽しかった。
彼女がニコニコと笑う姿をずっと見ていたかった。
そんなある日、彼女がポツリと呟いた。
「あ、高山さんだ。」
イケメンだ、と噂の一つ上の先輩だった。
彼女がそいつを見る目はキラキラしていて、正直、僕には向けられないものだと確信した。
それを知ってか知らずか、僕らが遊びに行く機会は自然と減っていった。
一方、イケメンはいろんな女性とつるんでいて、特定の彼女を作らず毎夜違う女と遊んでいるような奴だった。
もう夢中になっていた彼女はそれに傷付いていた。
僕の好きだった人は、よく寂しそうに空を見上げるときがあった。
そしていつもみたいな笑顔を振りまくわけでもなく、静かにこう言った。
「私ね、いつも“死”って存在に近づいた時、空を見上げるの。」
彼女は、決して死にたいだなんて言わなかった。
周りの女子大生は軽々と死ぬ、無理死にそう、死んじゃうかも、なんてすぐ吐くものだが、
それを彼女は“死”に近づくだなんて言うのだ。
そんな時は決まって、
「大丈夫、僕がいるよ。」
と声をかけた。
「ありがとう。」
そういった彼女の目に、僕の姿はなかった。
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