2、追いかけて

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2、追いかけて

彼女は3年になってから、前よりもよく空を見るようになった。 助けたい、救いたい、どうにかしてあげたい、そうは思うものの、 イケメンの女遊びは止まず、むしろ悪化していた。 俺なら、いくら好きな人でも遊び人だったら幻滅してしまうんじゃないかなんて思うが、 彼女にとっては大きな存在だったんだろう。 「俺がいるから」 そんな言葉、もうかけられなくなった。 励ます度に、彼女の中での存在が小さいのだと感じる。 ある日、サークル活動が終わると、彼女僕を見つめた。 「どうして最近元気無いの?」 好きな人の元気がないから。そんなの分かっていた。 「風邪気味なんだよ」 すると彼女は心配そうに、 「早く良くなって、遊ぼう」と言った。 「だって君は佐伯さんで忙しいだろ」 しまった、と思ったときにはもう口に出していた。 しばらく黙ってから、いつもみたいなキラキラの笑顔でそうだね、と言いながらこっちを見つめた。 眩しくて、ウザったかった。 夏に咲いている向日葵も、こんなものだっただろうか。 もう、好きなのをやめることなどできそうになかった。 数日後、大学内が騒然となった。 佐伯先輩が、死んだ。 普段の私生活の悪さが体に出たのだという。 タバコ、酒、オール、すべてを毎日のように繰り返していたので、そりゃあ分からなくもない話だった。 何より、彼女が気になった。 ショックを受けてるんじゃないだろうか。 彼女は、ボーッとどこか一点を見つめていて、いつもの笑顔は無かった。 心配で心配でしょうがなくなって、ついに聞いた。 「佐伯先輩の事、大丈夫?」 彼女はビックリした顔でこちらを見た。 「もう大丈夫かな」 と少し下手くそに苦笑いした。 そして、いつものように空を見あげた。 「先輩はさ、あの鳥よりもずっと上に行ったんだね」 彼女の傷をえぐるようなことはしたくなかった。 そっと頭を撫でて、ケーキを奢ってやった。 誰の人生であっても、いつかあっけなく、簡単になくなるのだと、悲しくなった。
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