メッセージ

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 見渡す限り、美しい青の世界だった。  澄み渡るような青い空にいくつもの雲がたなびいている。雲は天に近付くほど白く輝いていて、地表に向けた顔は眼下の情景を映したかのように青みがかった翳りを帯びていた。  真一文字の水平線より下には、染みるような深い青色が広がっている。海だ。ところどころに落ちた雲の影が、大海原を一層青く見せている。  こんなに美しい景色を写真や映像以外で見たのは初めてだ。  そう、まるで写真だ。  私は足元を見下ろした。  私の足の下には海が広がっている。しかし海の上に立っている、というのは正確ではない。なぜなら私の足は水面に触れていないからだ。私の体は宙に浮かんでいた。そしてなぜか目の前に、もう一つ私の体がある。  もう一人の私は頭を下に向けて、手足を空の方角に投げ出していた。やはり浮いているが、まるで重力に逆らうかのように長い髪が上に向かって流れている。眠っているのかまぶたを閉じていて、指の一本、髪の一本すら微動だにしない。  目に見える全てが静止していた。逆さまの私も、雲も、海さえも。  雲が動いていないのは、風が吹いていないからだろう。風音が聞こえないもの。  海が動いていないのは、波が立っていないからだろう。波音が聞こえないもの。  何も聞こえない。何も。静寂の中に、私の心の声だけが虚しく響く。  これはなに? 私は夢を見ているの?  唖然としていると、頭上から間の抜けた声が降ってきた。 「あれ? 出ちゃってるぅ」  見上げるとそれはすぐそばにいた。  肌も、髪も、何もかも内側から輝いているかのように白い。実際そうなのだろう。心なしか輪郭がぼやけているし、わずかに空の青が透けて見えるような気もする。  それは透明な一対の翼を背中から生やした、美しい女だった。
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