1人が本棚に入れています
本棚に追加
猫がうるさいのよ。
そう妻が愚痴るようになったのは、妊娠がわかった頃だった。
「またか。隣は猫なんか飼ってないと言ってたじゃないか。大体、あのアパートはペット禁止だろ」
「でも時々聞こえるのよ。きっと隠れて飼ってるんだわ」
俺は聞いたことはなかったが、時々というならたまたま俺がいない時に鳴いているんだろうと、その時はそう気にはしなかった。
「まあ、隠して部屋飼いしてるなら、うちの庭には入ってくることもないだろう」
「入って来なくたって、うるさいことに変わりはないじゃない! 何度も注意したのに、しらばっくれてばかりなんだから……あなたからもなんとか言ってちょうだいよ」
「そんなに目くじら立てなくたって……俺は聞いたことないし、たまにしか鳴いてないんだろう?」
俺も妊娠中にはマタニティブルーなどで不安定になるのは知ってはいたが、猫の声程度の騒音をいちいち気にしたり、近所と揉めるようになるほどとは思わず、何度も言われるうちに辟易してきた。
とはいえ妊娠中の妻を強く叱るのもストレスを与えて子に悪くないかと躊躇われるし、気の強い妻は叱ればかえって反発するタイプなのは過去の経験から身に染みていたし、前はそこまで物音に過敏というわけでもなかったのだから子供が生まれれば落ち着いて元に戻るだろうと、それほど深刻には考えていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!