永遠の宝物

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瞳の色は()せていた。希望絶望どうこうの状態ではなかった。私は一日を感情無しに動き、身体を酷使して、死んだように寝て、再び感情無しで動く一日を始めていた。感情を?想いを抱くことなんて、できなかった。あるとすれば、寝たい、食べたい、そんな人間として生きる最低限度の考えしか残っていなかった。私は人間として生きていくべきなのか考える余力さえも残されていなかった。 絶望を絶望と認識できない、毎日が続く。過酷で苛烈で劣情を抱かれても気が付かない。そんな疲弊が、続いた。もはや、人間としての『個』を無意識に捨てていた。だから、私を『私』と認識しないで、他人の一人称視点の奴隷だと認識し始めた。 そんなときだった気がする。 洞窟に一つの光が差した。 いつもの奴隷を嘲わらう人間ではなかった。警察官だった。 彼ら彼女らは、私を、奴隷の私たちを助けてくれた。 私たち奴隷は助け出された。 私はこのとき、嬉しいと思うことはできなかった。ただ、何か異常事態がおきただけ。そう思っていた。五年以上洞窟で奴隷として生き続けて、何も感情が抱けなかった。抱けなかった、そのはずなのに、洞窟から抜け出したとき、 「あっ…………」 私は感情を抱けた。 空が青かった。 五年ぶりに見た空。辺りにあるものも五年ぶりなのだけど、この日の空は一段と特別に見えた。 天気は快晴。雲一つなく透き通っていて、空の偉大さに想いが爆ぜた。 感情が再び芽生えた。感情を抱くことができるようになっていた。それでも、空に対する感情は広大で、抱くこともできないほど、大きな感情が空に対して在った。     
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