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アメリカン・スピリット
馬鹿と煙は高いところが好き、とはよく言ったものだけれど、馬鹿の吐いた煙ならば月まで届くのではなかろうか。
12月の寒空の下、アメリカン・スピリットを咥えながら、僕は何の気なしに呟いた。
副流煙が所在無さげにゆらゆらと立ち昇る。
燻る煙を前景に、輝く月を見上げるこの10分間。僕の人生のなかでも指折りの至福の時である。
「先に月まで届くのは、今まできみがそれに貢いできた500円玉のほうだろうね、お馬鹿さん」
「そこまでヘビーじゃねーですよ。てかまず俺は馬鹿じゃないし、どんな煙も月までは届きません。常識です」
「…………はいはい、そうだねー、天才だねー」
しかし改めて、我ながら頭の悪いことを言ったものだ。彼女は盛大に呆れている。
彼女の吐いた溜息は、白くたなびいて空へ昇った。
あまりに綺麗で儚げで、僕は思わず目移りした。
お月さんのほうだって、どうせ昇ってくるのなら綺麗なほうがいいだろう。
僕が月だとしたならば、当然そちらを希望する。
それが彼女の吐いた息だとしたならば、それはなおさらのことだった。
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