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「……至福の時間……って?」
「…………わかってるくせに、聞かないでよ……恥ずかしい……」
僕は彼女に正対した。
彼女はさらに深く俯いた。
たしかにわかっているけれど、わかっているつもりでいるけれど、直接声で聞きたかった。彼女の言葉で聞きたかった。
彼女はぱっと顔を上げた。
月にかかった溜息が晴れた。
白い吐息を前景に、真っ赤な可愛い顔が見えた。
「…………ふたりで過ごす、時間 ……だよ……」
馬鹿と煙は高いところが好き? 知らん。
馬鹿な俺は彼女が好きだ。
僕は、彼女の肩に手を置いた。
彼女は、すでに目を閉じていた。
温度が徐々に近づいてくる。
思わず手に力が入ってしまう。
彼女の体が少し、ひくっと動いたのが伝わってきた。
彼女は、僕の胸板に両手を当てて、一言、たった一言だけ、言った。
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