ウィンストン・キャスター

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「遅い〜」 「ごめんごめん、ちょっと教授に呼び出されてて……」 「そっか〜、じゃあしょうがないね〜」  こうやって嘘が灰のように積み上がっていくのが目に見えるようで、僕は引きつった笑顔を強化した。罪悪感が込み上げる。また煙が欲しくなる。唯一の救いはヤニ臭いにおいが彼女に届かないことくらいだろう。せめてバニラのフレーバーで癒されてほしい。  僕たちは並んで歩き始めた。互いの手が触れ合うたびに、どちらからともなく反射的に手を引っ込めてしまう。付き合い始めてもうずいぶん経つというのに、そんないじらしい関係でいられることを僕は誇りに思っていた。 「いい天気だね」 「そうだね〜」 「最近あったかくていいよね」 「ほんとだよね〜」  そんな何気ない会話すら心地よく感じる。3月にしては暖かい日が続き、散歩日和にして喫煙日和である。こんな日が、そしてこんな関係がずっと続けばいいなという刹那的なとろけるような幸福感に、ゆっくりと変化していくことへの少しピリッとした期待感が伴う。まるで適温の湯船のような時間だった。  そんなふうに僕が溶けてしまうかしまわないかのうちに、僕たちは目的地である公園に到着した。集合してからそんなに歩いたわけでもなかったが、どちらからともなくベンチに腰掛けた。会って特に何をするわけでもなく、ただ一緒にいるというただそれだけのことでこんなにも幸せなのだということを僕は初めて思い知った。彼女も隣で気持ち良さそうに深呼吸している。僕の体も少し抱いた罪悪感も、ちょっと早めの春風に溶けて流れていくかと思われた。  その時彼女が口を開いたのだった。僕の耳に唇を寄せて。 「あのさ〜」
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