あっち ~三つめ~

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「時間だ」 「アキ‥‥行かなきゃ」 「ねえ」 「なに?」 「キスして」 「えーっ、無茶苦茶言わないで」 「いいじゃん」 「ダメだよ」 「じゃあ代わりに‥‥言って」 「愛してる‥‥ぞ」 「‥‥うん」 「‥‥うん」 「わたしも‥‥愛してる‥‥ぞ」 「はい」 「ねえ忠子、あっちで一緒に生きようよ」 「戻ってこないの?」 「‥‥お願い」 「‥‥分かった。会社とか、いろいろ片付けなきゃいけないことがあるから時間はかかるけど」 「待ってるよ」 「うん」 「‥‥もし」 「うん」 「今日という日がなかったら、わたしとこんな話ができなかったら、どうしてた?」 「気持ちをしまったまま、一生一人で生きていくと思う」 「わたしは‥‥」 「どうしてた?」 「一生、一人で海を眺めていたと思う」 突然、忠子が飛びかかってきた。 「どう‥‥わたしのキスは?」 「あっ‥‥本当は、中華と焼酎の味がするんだろうけど、わたしもだから、何も味がしない」 「‥‥フフ、そりゃそうか」 「泣いてるの?」 「‥‥ちょっと」 「ちなみにさ」 「あっ、もうヤバい、アキ」 「わたしね、あんたに一目惚れだったんだよ」 「扉がしまっちゃう、アキ、急いで!」
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