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専務室に入ると、狼と中田さんの間にはまるで火花が飛び散っていそうな険悪な雰囲気。
「美優。
この間の事は考えておいてくれた?」
「いえ、考えてません。
考えるまでもなく、中田さんとよりを戻すつもりはありませんから。」
「どうして?」
「あんなに酷いことをしておいて、よくどうしてとか言えたわね。」
「美優。
まだ俺を忘れてないんだろ?」
そう言って私に近づく。
後退りした私は廊下の壁に背をつける形で逃げられなくなり、あっけなく捕まった。
そして無理矢理のキス。
「イヤ!!」
力いっぱい中田さんを押しやった。
ずっと諦められなかった人を、私は今、心の底から拒否した。
やっと中田さんを嫌いになれた。
そう思うと涙が流れた。
それを見ていた狼が中田さんの腕を私から引き離して、私の前まで来て言った。
「キスしても?」
私はわずかにうなずいて、いつもの熱くて濃厚で苦しくて優しいキスをした。
でも、いつもと違うことが一つ。
それは、いつもは私が立てなくなる前に唇を離す狼が、今日は私が立っていられなくなって狼にしがみつくまで唇を話さなかったこと。
やっと唇を離した狼は、
「やっぱ かわいいわ」
とつぶやいて微笑んだ。
「何してるんだ。」
中田さんの怒った声が部屋中に響く。
「見てもわからないですか?
俺は美優を愛してる。
美優も受け入れてくれてると思うけど…?」
「美優。
俺の所に戻ってきてくれるよな?」
中田さんは必死に私に問いかける。
私は真っ直ぐに中田さんを見つめた。
「ごめんなさい。
私、今やっとわかったの。
私の中にあなたはもういない。
だって、あなたにキスされて心から嫌だと思ったから……。
もう完全にあなたを忘れたの。」
「何言ってんだ!!」
「私、中田さんの独りよがりで時分を誇示するキスが普通なんだと思ってた。
その中に愛が込められているとずっと信じてた。
でも五十嵐さんはいつも優しいキスをしてくれた。
私を心配してくれていることが凄く伝わった。
あなたが好きなのは私じゃなくて、自分自身よ。」
「俺は美優を忘れてないから。」
中田さんはそんな自分勝手な事を言って悔しそうに出ていった。
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