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一年は、ただ行き過ぎるだけだ。
しかし、たとえ姿は見せずとも、甘い香りは誰にも隠せはしない。
秋は、どこにもないはずの入り口が唯一見える気がする季節だ。
「夜型の人間を早朝に引っ張り出すのは感心しない」
男は、ぼそぼそと呟いてみる。
金木犀の香りは、思考の大部分をどこかに追いやる。
「こんなに空は晴れたがってるのに?」
女の言葉は、いつも思いがけない何かを連れてくる。
それが何かはわからない。
それよりどうやってこの女に出逢ったのだったか。
酒の席だったろう。
女は、男の中に故郷と父親を見たのかもしれない。
あの地にいる大好きな、大好きな強くて弱いひとを。
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