零 『忍者狩り?』

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零 『忍者狩り?』

 ──二〇〇二年四月、三重県。  伊賀の深い深い山奥。鬱蒼と生い茂る木から木へと、二匹のムササビが音もなく、闇夜を飛び回っていた。  特に目的があるのかないのか、あっちへ飛んだりそっちへ飛んだり、まるで鬼ごっこでも楽しんでいるようなムササビたちは、ムササビにしては少々大きめで、しかも次のような会話を交わしていた。 「知っているか、沙季?」 「龍磨、唐突に何の話?」  いや、ムササビが言葉を喋るはずはないから、その正体はやはり人間と思われるが、だとしたらムササビのように見え、ましてムササビのように飛ぶ彼らは、実に超人的な身体能力の持ち主である。 「近頃、連続して起きてる、神隠しの件だ」 「あぁ、逐電か拉致か…。どちらにしても、何人もの忍者が突然消えたとなると、ただ事ではないわね」 「俺はこれを、忍者狩りと見ている──」 「忍者狩り?」  忍者だの忍者狩りだのと、他の人間が聞いても理解できない奇妙な話だが、ここは深い森の伊賀の山中、そもそもこの会話を聞いている者など誰も居ない。 「となると、ひょっとしたら私たちにもお呼びが掛かるかもね」 「そこだ、沙季!」 「何よ龍磨、急に熱くなって…」 「お前はそろそろ修行の成果を試してみたいとは思わないのか?」 「なるほど、そう言う事なら是非とも試してみたいけど──」 「だろう。毎日毎日、血を吐くような厳しい忍法修行に耐えてきた俺たちだ。このまま伊賀の山奥、鍔隠れの里なんかに引きこもっていたら、宝の持ち腐れだぞ」  二匹のムササビ、いや、二人の男女は尚も森の中を飛び回っている。時折、丸く大きな月にその姿を呑み込まれながら。 「でも…」 「でも何だ、沙季?」 「実を言うと、私はずっとこうして鍔隠れで過ごすのも悪くないと思ってるの。ううん、出来る事ならそうしたい──」 「何を言うんだ、沙季」 「一度任務に就けば、命に保証のない忍者稼業。鍔隠れで修行している分には、少なくとも死の恐怖に怯える事はないわ」 「沙季、今更死を恐れるとは見損なったぞ」 「死ぬのは怖くない。任務で死ねれば、忍者にとってはこの上ない栄誉。でも、今が終わってしまうのは…、こうして龍磨と過ごす日々が終わってしまうのは…、心の底から怖い」
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