8.きみと道の途中

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あの時、俺はきみにもっと近づきたいと思った。近づいて近づいて、触れ合うほどに近づいて、そうしたら今度は。 …触れるのが、怖くなった。 どこまでも優しい澤くんは俺が何をしても今のところ大抵は赦してくれるけれど、俺はその優しさが怖い。いっそ拒絶されてしまえばいいんだろうか。いや、やっぱりそれは嫌だ。一度でもきみに本気で拒絶されてしまえば、俺はきっともう動くことすら出来なくなってしまうから。 間違えたくない。だけど我慢も出来ない。 結局のところ、俺はどうしようもない。外見はいくら誤魔化せても、中身まではそう簡単には変わることが出来ないんだ。イメチェンはまだ終わっていないし、出来る気がしない。 今まで空っぽだと思っていたところに急に綺麗な清流が流れ込んできたと思ったら、今度はどろどろとしたどす黒い何かに変わって、やっぱり黒いのは流れ去ってまた綺麗な星空を映し出す湖になったりして。 きみに出会ってしまってから、とにかく俺の世界は忙しい。「感情」というものが空想の生物なんかじゃなかったのだと思い知ってから、俺の中は「澤くん」でいっぱいになった。それは時にとても心地良くて、暖かくて、苦しくて、痛くて逃げたくなって、それでも離したくなくて、離れたくなくて。もう自分でもどうしたらいいのか分からなくなって、このまま感情の渦に抗わずに溺れてしまおうかなんて思ったりして。 なのにそういう時に限って見計らったかのようにきみは俺の手を引いて、迷わず「こっちだよ」って導いてくれる。 正直神様かと思った。けれど違った。 ただの人間だった。 あぁ…良かった。彼が神様じゃなくて、俺と同じただの人間で、本当に良かった。 手を伸ばせば届くところに居てくれて、本当に良かったよ。
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