8.きみと道の途中

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「今日の藤倉何か変。いや…いつもおかしいけど、今日は静か過ぎて逆に気持ち悪い」 「えぇ、ひどーい…気持ち悪いなんて言われたの初めてだよ」 「そりゃまぁ、そうだろうな」 「騒がしい俺の方が好き?」 「いや、適度でいい。適度で。っていうか、別にしんどいとかじゃないならいいんだ」 「あぁー…。ちょっと待ってちょっと待って」 はぁーっと長い溜め息を吐いてその場にしゃがみ込んでしまった俺の顔を心配そうに覗き込むと、澤くんは「何だいつものか。良かった」なんて安堵している。 あぁもうほら…そういうとこ。そういうとこだよ!俺の中はもう色んな感情が溢れて大変だっていうのに、これ以上無いほどに掻き乱してくれる。 しゃがみ込んだままちらりと顔を上げ、「ん?」と首を傾げる無防備な彼を見つめる。俺は今、どんな顔してるんだろうな。きみの前ではいつも、格好良くありたいのにな…。何せきみがそうさせてくれないから、ちょっと意地悪がしたくなった。 「ははっ。変な顔」 「…っ!」 そう言ってくしゃりと目を細めた彼の腕をぐんと引っ張って、無理矢理抱き寄せた。バランスを崩した彼が怪我しないように、全身で受け止める。するとぼすんっと音がして、二人してアスファルトに倒れ込んだ。 「おっまえ!ここどこだと、」 「家ならいーの?」 「そう言う問題じゃなくてだな、わっ」 ぎゅううっと力を込めて遠慮無く首筋に顔を埋め、肺一杯に彼の匂いを吸い込んだ。いつもは俺が頭を撫でられるけれど、今日は俺が撫でる番。さらさらの短い黒髪を指で梳いて、赤ん坊を安心させるように背中をぽんぽんと優しく叩く。馬鹿な澤くんは俺にされるがままになっている。 本当に馬鹿だ。本気で逃げようとすれば、いつだって逃げられるのになぁ。…本当に、馬鹿だなぁ。
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