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3.澤くんとはじめての
前々から何となく気付いてはいた。そろそろ駄目なのかなって。でもずっと一緒だったし、中々決心がつかなくて見て見ぬ振りをしていたんだ。だけどそれももう、限界が来てしまったらしい。
二人で並んで歩くのが当たり前になったのは一体いつからだろう。その二人での帰り道、俺はどうしても無視出来ない違和感に、足元を見下ろした。
「澤くん?どうしたの?」
隣で藤倉が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、もうそろそろ限界来たかなって」
「え」
あーぁ。やだなぁ。結構気に入ってたのにな。
「やっぱもう捨てるしかないよな」
「………え」
「靴、買い替えるかー…」
そう、俺のお気に入りの運動靴にも遂に限界が来たらしい。親指の辺りに小さな穴が開いてるし、踵も擦れ過ぎて大分薄くなってきている気がする。雨の日にこれ履くと水が染み込んでくるぐらいだもんなぁ。絶対裏の方もどっか穴開いてるかも。
「く、つ…?」
「おう。こないだお前が言ってたみたいにもしかして歩き方にズレがあんのかも。左の方が特にヤバくってさ、…って、藤倉?」
「あ、あぁ、靴!靴か。そか…。良かったー…」
見上げると、ふうっと胸に手を当ててあからさまに安堵している様子の藤倉。何でかすごく焦っていたみたいだ。いや、何で?
「何で安心してんの?」
「いや、俺遂に捨てられるのかと…」
「捨て…?はぁ?何言ってんだお前」
捨てるとか、物じゃあるまいし。マジで意味分からん。けれど藤倉は一瞬真剣に焦ったらしく、まだちょっと元気が無いみたいだ。犬耳がシュンと垂れてるぞ。
俺が見ているのに気付くと、すっといつも通りのヘラヘラした表情に戻ってしまった犬倉。「ん?」と小首を傾げて何事も無かったかのように見つめ返してくる。
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