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5.藤倉くんと眼差しの向こう
俺たちがやって来たのは少し大きめのスポーツ用品店。
俺は真っ直ぐにシューズ売り場へ向かい、持っている予算内で欲しい靴を探していた。
しかしふと気付くと、隣に藤倉の姿が無い。ついさっきまですぐ近くに居たはずなんだけど…。俺がシューズ選びに夢中になっている内に、違うものでも見に行ったのかな。いつもすぐ隣に引っ付いてるから、たまに居ないと何となくすうすうして変な感じになってしまう。
「あ、居た」
きょろきょろと辺りを見渡すと、見慣れた髪色が少し先に見つかった。背が高いと見つけやすいなぁ。藤倉が居たのはすぐ隣の野球コーナーだった。そうっと近づいて見ると、藤倉は何やら野球のボールを持って優しく微笑んでいる。
…何だろう。彼の柔らかな眼差しは見慣れた表情だけれど、何故その表情をボールなんかに向けているんだろう。不思議に思って聞いてみる。
「何やってんの?」
「んー?ちょっとね」
「お前って、野球好きだったっけ」
「嫌いではないよ。野球自体にはそんなに興味無いかも」
じゃあ何故ボールに対してそんな表情を…。あ、もしかして。
「そのボール欲しいのか?」
「ボール?あぁ、いや。…もう持ってるから」
野球に興味無いのにボールは持ってる…?何でだ?確か兄弟居なかったよなぁこいつ。聞けば聞くほど謎は深まる一方だ。
「それより、靴見つかった?って、それ…」
藤倉はボールを元にあった所に戻すと、俺が手にしていた靴を見て少し目を見開いた。
「あぁ、色々悩んだんだけど結局お前が選んだやつが一番良さそうだったからこれにする。待たせて悪かったな」
「………っ」
「え、何、どうした?」
「いや、大丈夫。うん」
口元を押さえて何やら驚いたような嬉しいような表情をしているこの藤倉も見慣れたものだが、何でこんな喜んでんだこいつ…?
わっかんねぇ…。
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