四 『ハレルヤ!』

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 洋斎は、美少年の瞳で実香を見つめ返した。 「言ったろ。俺はその為に来たんだ」  その、はにかんだ声は、洋斎もまた実香に心を奪われているように聞こえさせた。 「じゃ、その時はよろしくね!」  明るく言って教会の中へ入って行く実香を、洋斎はまた唇を尖らせて見送った。           ○ 「これは愉快。その表情からして、おぬしもあのおなごに惚れたようじゃな?」  急に頭上から降って来た声に、洋斎は口を尖らせながら、教会の脇にある大きなケヤキの木を見上げた。 「それにしても、洋斎を持ってしても落とし切れぬとは、恐るべし祥仙の呪縛じゃな──」  ケヤキの枝に、柳のような足を垂らして座りながら英斎が言うと、別の枝に丸い足を投げ出して座る貫斎が鼻で笑った。 「なぁに、黒魔術さえ解いてしまえば、彼女たちの洗脳も綺麗さっぱりさ」  洋斎は、ちょっと眉を上げて言った。 「やはり黒魔術か──」 「おおよ、全てはお前の読み通りだ」  答えた貫斎の知識は、全て英斎の受け売りなのだが、それを知らない洋斎はギラと眼を光らせた。 「ならば早速、その祥仙神父とやらを退治してくれるか!」  だが、教会の方へ身を乗り出した洋斎を、英斎が静かな声で引き留める。 「まぁ待て。それでは祥仙の真の狙いが見えて来ぬ」 「ならばどうする?」 「ここはしばらく、泳がせておく」 「歯がゆい!」  また唇を尖らせた洋斎に、英斎は穏やかに笑って言った。 「いや、退屈はさせぬ。今夜もう一度、三人で教会に忍び込もうぞ。すれば面白いものが見られるはずじゃ」           ○  ──その夜が来て、英斎、貫斎、洋斎の三人は予定通り、再び教会の中に忍び込んだ。  いや、そのはずなのだが、今度は一体何処に潜んでいるのやら、昼間の壁画の中は勿論、三人の姿は何処にも見えなかった。  したがって、祥仙神父は何も知らない。何も知らないまま、薄暗い大聖堂で、大きなテーブルの前に立っている。  テーブルの上には、例の三人娘が横になって並んでいた。眠っている、と言うよりは眠らされている、と言った寝顔であり、寝息である。 そして、彼女たちは皆、全裸であった。 「よし。裏切りは見当たらぬ。──三人とも、男を知らぬ清らかな肉体を保っておる」 
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