四 『ハレルヤ!』

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 興奮を抑えるように言った祥仙神父は、ゆっくりと大聖堂の壁際まで歩いて行き、そこに掲げられた十字架に手を伸ばすと、それを時計回りに九十度回転させた。  すると、その足元の床がゴーと音を立てて横滑りに動き出し、ポッカリと穴が空いた先には、地下へと続く隠し階段が現れたではないか。 「ハレルヤ!」  雄叫びのように大声を上げ、それから唇の端を曲げて、何とも不気味な笑みを浮かべた祥仙神父は、コツコツと足音を立てて地下へと降りて行った。 「シエラ、ガブリエラ──」  祥仙神父が降り立った地下室は、窓ひとつ無く、レンガを積み上げた壁が四方を囲む八畳ほどの部屋だった。  その真ん中に灯された、大きなランタンに照らされて浮かぶ影が二人。  「いよいよお前達の出番が来たぞ」  一人はロマンスグレーで小柄な白人老婆。 もう一人は大柄で逞しいが、無垢で愛想のいい顔つきをした、まだ若々しい白人美女。 いずれもシスター姿だ。  その、老婆の方がしゃがれた声を張り上げて、祥仙神父に言った。 「おぉ。このシエラ、どれだけこの時を待ちわびたか!」  大柄で無垢な美女も叫ぶ。 「遂に聖なる乙女達の生き血が手に入るのですね?」  祥仙神父は重々しく頷いて、また不気味な笑みを浮かべた。 「本日より聖夜まで、六十と六日。その間、あの乙女達の汚れなき生き血を熟成させ、そして例のキリストの爪と共に食せば、その時、私は神となるのだ!」  ギラギラと眼を輝かせる祥仙は、とても聖職者には見えず、もはや魔人のようであった。 「シエラ、ガブリエラ、これより処女たちの生き血の採取を開始せよ!」 「はい。祥仙様!」  声を揃えて地下室から大聖堂へと飛び出して行ったシエラとガブリエラは、けれどまたすぐに、大慌てで地下室へと戻って来て、祥仙に叫んだ。 「祥仙様、しょ、処女達が一人残らず消えています!」 「何だと?」  ガツガツと祥仙も大聖堂へと出て来たが、やはりさっきまで三人娘達が寝かされていたテーブが、今は空だ。 「どう言う事だ?」  すると、まるで遠くでトンビが鳴いているような声が何処からともなく響いて来て、あざ笑うように祥仙の問に答えた。 「娘達は貰って行く。いや、返して貰う、と言った方が正しいかな──」  姿も無ければ、もはや教会の中にその気配すら感じないが、声は確かに根来三人衆の最長老、英斎のものだった。
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