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五 『根来忍法三途の舞い』
「ええい、何をしているかシエラ、ガブリエラ!」
大聖堂に祥仙の取り乱した叫びが響いた。
「追え!直ちに追うんだ!」
「は、はい!」
反射的に走り出したシエラとガブリエラに続き、祥仙自らも教会を飛び出して行く。
「何者かは知らぬが、邪魔する奴は殺しても構わん!」
叫びながら、何かを嗅ぎ付けたように眼で合図すると、三人はそれぞれ三方に別れ、見えない敵の背中を追った。
「必ずや、今夜の内にあの娘達を連れて返るのだぞ!」
○
心地よいリズムで揺られながら、けれど頬に当たるゴツゴツとした痛みに、生野沙織はぼんやりと意識を取り戻した。
「目を覚ましたか…」
そう声を掛けられても、すぐには状況を理解できなかった沙織だが、ゆりかごのようなリズムは自分を背負いながら歩いていたこの人物の歩調であり、頬の痛みはその骨っぽい肩が当たっていた為だと言う事は分かった。
「ここは、何処?」
まだ上手く回らない脳に浮かんだ疑問を、自分を背負いながら歩き続ける人物に投げ掛けてみる。
するとその老人は、孫にでも話すような優しい口調で応えた。
「そろそろ山中湖が見えて来るはずじゃ」
この場合、背負う方よりも背負われる沙織の方が長身であるから、バランス的には少々滑稽なのだが、それでも不思議と骨っぽい背中に安らぎを感じながら、沙織はまた尋ねた。
「あなたは…、誰?」
「柳根英斎と申す。縁あって、そなたを助けに来た」
「私を助けに?」
「さよう。──つまり、助け出した結果が今と言うわけで…、だからもう心配は無用じゃ」
ハッとして、沙織は英斎の背中でもがき出した。
無論、教会から逃げ出す際に、ちゃんと服は着せられているが、その服がはだけんばかりの勢いだ。
「降ろして下さい。私、教会に戻らないと…」
「すまぬがそれは出来かねる」
長身の沙織に背中で暴れられては、それをなだめるのは容易ではないが、しかし英斎の手は巧みに沙織を逃がさない。きっちりと拘束して放さないのではなく、沙織の動きに合わせて、彼女を落とさないように守っている感じだ。
「これがそなたの為なんじゃ。頼むから落ち着いて話を聞いて下され」
沙織にも、英斎が悪人でないことは分かっている。
言われた通りに暴れるのを止めて、今度は静かに言った。
「分かりました。お話を伺いますから、とにかく降ろして下さい」
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