五 『根来忍法三途の舞い』

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 すると英斎は、突如、道を外れて進みだし、そのまましばらく行った所で立ち止ると、優しく沙織を地に降ろした。 ──そこは、夜の闇に静かな波音を響かせる、山中湖の湖畔だ。 「教会へは戻らない方が良い」  沙織の顔を見るに見れない感じで、つまり照れ臭そうに英斎は言った。 「そなたらが眠らされている間に聞いた祥仙の話によると、奴らの本当の狙いは処女の生き血──。つまりの所、そなたらの命らしいのじゃ」  この説明を受けて、沙織の方も、その童顔の頬をポッと紅く染めた。 「いや、先程も申したように心配は無用。わしと一緒にいてくれさえすれば、奴らには、そなたの躰に指一本触れさせはせぬ!」  まるで愛の告白でもしているかのような英斎の熱心な声に、沙織は戸惑いの表情を浮かべた。 英斎の言わんとしていることは理解しているのだが、まだ祥仙の洗脳が解けていないのだ。 「でも私…。祥仙様の為、いいえ、神の為ならば生け贄になることも──」  沙織の言葉を途中で遮るように、英斎は声を張って叫んだ。 「それはならぬ!」  あまりの英斎の迫力に、そしてその真剣な表情に、沙織はただ言葉を飲んだ。 「そなたは清く美しい──。わしは年甲斐もなく、そなたに恋をしてしまった──」  ぎこちのない言い方ではあったが、今度は正真正銘、愛の告白。しかもその年齢差は、八十近いのだ。 「たとえ、そなたに恨まれることになろうと、わしは愛するそなたを奴らには渡さない」  意外にも、沙織の方も真剣に英斎の告白を聞いている。未だ祥仙への服従心に捕らわれ続けてはいるが、英斎の熱意に心を打たれているのは事実のようだ。  その沙織の目を真っ直ぐに見つめて、力強く英斎は言った。 「この柳根英斎、命に代えても、必ずそなたを守り抜いて見せる!」  沙織の頬には、涙がこぼれていた。なぜ泣いているのかは、自分でも分からなかった──。           ○  呆気ない出来事であった。 「俺としたことが…、少々のぼせておったようじゃ…」  そう言って沙織の目の前で膝から崩れ落ちた英斎の背中には、たった今、背後から突き刺されたばかりの短刀が、その柄の部分だけが覗いていた。 ましてその刃には即効性の毒でも塗ってあったか、英斎はピクピクと呼吸困難を起こしている。 「まったく、手間を取らせやがって──」
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