零 『アーメン…』

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 母親との小旅行中だった生野沙織(しょうのさおり)は、モデルのようにスレンダーな長身で、けれど顔だけ見れば中学生みたいな童顔をした、実際にもまだ十代の美少女だった。  彼女もやはり、池の底を覗き込んだあとで意味不明な発言を繰り返し、そして突然、絶叫しながら姿を消したと言う。  また、女友達と三人でドライブしていた、これまた十代女性の岡崎優奈(おかざきゆうな)は、背丈は人並みだが彫刻のように美しいスタイルの持ち主で、それとは少々アンバランスとも思えるキュートな顔を併せ持つ美少女だった。  彼女の場合には、池の底を覗き込んだ途端に変化が現れたと言う。 急に人が変わったように叫び声を上げ、一目散にどこかへ走り出したかと思うと、これまた、そのまま戻ることはなかった…。  いずれも若い美女であること以外に三人に共通点は見当たらず、彼女たちが何故、そして何処へ消えてしまったのかも、皆目見当が付かなかった。  ただ、最後に彼女らの姿を目撃した人たちの証言によれば、三人は皆、何かに憑りつかれたような目で激走しながら、何度も何度もこう呟いていたと言う。 「アーメン…。アーメン…。アーメン…」 三人とも、カトリックでもクリスチャンでもないのだから、これは全く意味不明である。  言うまでもなく、届けを受けた地元警察は連続失踪事件として、直ちに彼女たちの捜索を開始した。  しかし、猛暑の夏、その白昼に突然、忍野八海で消息を絶った三人の美女たちは、木々が色を変え始めた秋になっても、未だその行方が分からないままだった──。
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