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見た目だけではない。そもそもこの柳根英斎と丸根貫斎は今、吹き抜けの教会の高い壁に二匹のトカゲのようにへばりついているのだ。
巨漢の貫斎が自らの体重を全く苦にしていないのも信じがたいが、それよりはだいぶ軽めとは言え、これだけの筋力を持つ九十過ぎの老人が他にいるだろうか。
「それで英斎、何か分かったか?」
「あぁ──。何ともいかがわしい事が起きておるぞ」
「いかがわしい事?」
「今しばらく待て。もうそろそろ始まるはずじゃ」
二人が張り付く壁には、一面に壁画が描かれていて、貫斎と英斎はまるで、その壁画の一部のようであった。つまり、壁画がカムフラージュとなって、遠目にはそこに丸い少年と細長い老人がひっついているとは分かりにくいのだ。
それを良いことに、英斎は顎をしゃくって貫斎に下を見るように促した。
壁にへばりついた二人が見下ろしたのは、教会の大聖堂。そこには、貫斎が後を追って来た岡崎優奈と、もう一人別の若い美女が、そして大きな身体をした白人老紳士の姿もあった。
「あのおっさんは何者だ?」
貫斎が尋ねて来るのを待っていたように、英斎は答えた。
「ミハエル祥仙。この教会の神父じゃ」
「見るからに胡散臭い面構えだな」
「無理もない。バッタモンの聖職者じゃからの」
貫斎は、不満げな声を出した。
「バッタモン?」
英斎は諭すように返す。
「まぁ見ていろ」
「では始めましょうか──」
ミハエル祥仙神父は、流暢な日本語で言った。
百八十センチを越え、かなり格幅の良い肉体をした白人老神父は、それだけに年齢不詳。見た目には英斎とあまり変わらないように思えるのだが、そもそも英斎自身が実年齢と見た目が比例しない男だから、これは参考にならない。
「シスター沙織、そこのロウソクに灯をともしなさい」
祥仙神父に言われた、長身でスレンダーな童顔美少女は、膝を曲げてお辞儀をすると、言われた通りにマッチでロウソクに火を着けた。
それを見て、貫斎が壁画の中で呟く。
「あれが生野沙織か…」
「美少女であろう」
応えたのは無論、英斎だ。
「恥ずかしながらこの英斎、あのおなごを一目見て、初恋をした──」
「おいおい、正気か爺さん。八十近い年の差だぞ」
思わず目を剥いて英斎の顔を覗き込んだ貫斎は、老人のこけた頬が見る見る赤く染まっていくのを見て、その二重あごをポカンと落とした。
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