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目の前の大きなドラゴンは動きもせず、地に足を着けて翼を閉じ、じっとカイを見据えている。
見るのも恐ろしかった。
その姿を見れば嫌でもあの日を思い出す。
この鋭い牙を、爪を、尻尾を。何を見ても残酷な光景しか思い浮かばない。
心臓が壊れるのではないかというほど激しく音をたて、胸がざわめく。苦しい。恐ろしい。そして、死ぬほど憎い。
そのあとまた聞こえてきた言葉はカイを驚かせた。
――私の子供を助けてくれた事、感謝する。
先から聞こえてくるこの声は、この大きなドラゴンが自分に語りかけている言葉なのだとようやく理解した。
そして、チビがこのドラゴンの子供だという、それはなんとも皮肉な巡り合わせだった。
カイはチビと過ごした数日でドラゴンに対してわかったことがあった。
それは彼らは、けして本能だけで過ごしているわけではないということ。
自分達が考えていたよりもずっと知能が高い。それに、理性があった。
カイの心で二つの気持ちがせめぎあっていた。
ひとつは、両親を殺したドラゴンを憎く思う気持ち、敵(かたき)をとりたいという感情。
もうひとつは、仕方がないという諦めの気持ち。
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