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どちらにしろ、自分にはこのドラゴンを倒す力も気持ちもない。国の人々が守られるなら、もう失うものもない。どうせあの時死ぬはずだった命だ。もうどうなったっていい。
「それでいい」
ドラゴンの目がいっそう紅く燃え上がった。
――先に言っておく。私はもう二度と人間を喰わないと誓うが、他のドラゴンまでそうさせることはできない。それ故この国全体に結界を張る。契約を交わした人間はドラゴンの一部の力を得ることによりこの結界を潜ることが出来ないが、結界の外にいる必要がある。そしてその結界から遠く離れてはいけない。つまり君はもう二度と国に帰れないし、他の場所に行くことも出来ない。そして契約内容を君の口から他人に明かすことも許されない。
――……それでもいいか?
「ああいいよ」
――それでは契約成立だ
少しの間地震のように地面が揺れた気がした。
そして気が付くと、二匹のドラゴンは消えていて、カイはそこに一人取り残されていた。
夢でも見ていたのかと思うほどの静けさだけが耳に響いている。
カイはさっきまでドラゴンが居た場所を呆然と見つめながら、自分の頬をさわって、夢かどうかを確かめた。
そこにはチビの爪でつけられた傷があったはずだった。驚くことに朝つけられた傷はもう治り、滑らかな肌になっていた。もちろん、夢でなければ。
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