使命

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 ヴィダルはカイの性格において、自分のことよりも他人の事を優先する所があることを知っていた。それは彼の良い所であり、悪いところでもあると常々思っていた。 「なに、私達は人間のように死を悲観的に捉えていない。肉体は無くなっても魂は永遠だ。お互いが強く想い合えばまたどこかで必ず巡り会う。例えばそれはこの世界の未来かもしれないし、まったく別の世界の過去かもしれない。私達はそう理解している」  カイは眉間にシワを寄せてヴィダルの言葉の意味をよく考えたが、その顔は難しい表情のままだ。単純に意味がわかっていないとも言える。 「話を戻そう、君の体は不老不死ではないという所まで。だから、もうあんな無茶はしないでほしい。あんなに高いところから落ちたら本当に死んでしまうかもしれない」  ヴィダルの話を聞き、これまでの事を思い返すと自ずとその答えに行き着く。なぜヴィダルが今になって現れたのか。 「俺、もしかしてもうすぐ死ぬのか?」  ヴィダルはカイの瞳をそらさずに見つめ返した。 「ああそうだ。君は死ぬ」  とてつもなく長い時を孤独に過ごした。  もうすぐ死ぬ。  その言葉を聞いても心には波風ひとつ起きない。それほどまでに長く生きすぎた。  願わくばルシアのことをもっと早くに見つけたかった。自分の長い人生のなかで、ルシアが色をつけてくれた時間は遥かに短い。     
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