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「俺が死んだあと壁がなくなったら……」
「君も気付いているだろうが、あの壁はドラゴンは越えられないし、よせつけもしない。あの付近でドラゴンと会うことはなかっただろう?」
「うん」
「百年近く生きないと魔法が使えないものでね。もっと早く人間の姿になって君に会いに行きたかったのだが、壁に近づく事すら出来ずこんなに遅くなってしまった。礼が遅れた、あの時はありがとう。君の事を忘れた日は一度もなかった」
カイはまだ小さなドラゴンだったときのヴィダルを思い返した。今目の前にいる少年と、あれが同一人物だとはまったく思えない。
「寂しくて一人で寝られなかったあいつがね……こうも変わるとは」
「私は君と違って大人になったんだ」
至極冷静な顔でヴィダルはそう言い放つ。
「俺だって大人だよ!」
「君はあの時とまるで変わらない」
「なに……」
「あの時の、美しい心のままだ」
カイはヴィダルの悪気のない視線から顔を背けると、腕に立った鳥肌を素早く撫でた。
「き……気持ち悪いこと言うな」
何事もなかったかのようにヴィダルは話を続ける。
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