因果

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 ヴィダルの言葉も届かない。こうなることをヴィダルはある程度予想はしていたが、実際に絶望の淵に立たされあと少しでも風が吹けば奈落の底に落ちていきそうなカイを目の当たりにすると、話したことを後悔する。 「俺が、よく考えもせずあんな事願ったばっかりに」  顔が青い。完全に血の気が引いている。 「カイ、」  ヴィダルがカイの肩を触ろうとしたとき、カイはその手を振り払った。 「あ……、」  ヴィダルの驚いた顔を見て、気まずそうに顔を伏せる。 「ごめん、……少し、一人で考えたい」  そう言って両目を手で覆い、項垂(うなだ)れる。  ヴィダルは頷くと、黙ってその場を離れた。  カイが自分のせいだと自らを責め苦しい思いをするのなら、その理屈で言うと自分にも責任がある。  自分がもしあの時あの森であの罠にさえかからなければ、今こうしてカイを苦しめることはなかった、そうヴィダルは思った。    あの時カイに助けられなければ自分の命は終わっていた、ならばその命はカイのために使おう。ヴィダルは初めからそのつもりでここへ来た。だが自分にはルシアを助けることができない。ここへ来るまで、彼女の存在すら知らなかったのだ。カイの願いは国を守ること。そう思い、ここへ来た。だが彼はもしかすると、それ以上に彼女の事を助けたいと願うかもしれない。    ・     
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