冷たく優しい手

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「そのような従者ならば彼女が契約者にならずとも遅かれ早かれ裏切りを起こしていただろう。彼女は王家の人間か? ……そうか、国の中心には城があったな。王位継承の揉め事にでも巻き込まれたんじゃないのか。知らんけど。気の毒に」  カイはヴィダルの話を聞きながら自分のボロボロの靴を見つめた。次にルシアの事を思い浮かべた。きっと彼女は口にしないだけで、もっと様々な苦しい思いを抱え込んでいる。今のヴィダルの言葉を聞いただけでも、数々の辛い事実が見え隠れしていることに、自分の鈍い頭でも気付いた。 「どうやって償えば良いんだろう。彼女に何をしてやれるだろう……」  カイの顔を見ていたヴィダルは自分まで暗い顔になっているのに気が付いた。  人間の表情というのはなぜこうも感情が分かりやすくできているのだろうと不思議に思い、額に力を入れると唇を結ぶ。 「……ルシアは、いま幸せだと言っていた」 「え……」 「君のおかげだそうだ」 「笑えない冗談言うな。……帰ろう」  ようやく立ち上がったカイを見てヴィダルは少し安心した。まだ話があったのだが、今日はもうやめておこうと決める。 「あの粗悪な小屋は君が作ったんだって? 固い窓を開けるのに苦労したよ」  夜道を歩きながらヴィダルは言う。 「粗悪で悪かったな」 「だがルシアは喜んでいた。カイが一生懸命に作ってくれたんだと」  カイの返事はない。     
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