冷たく優しい手

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 ヴィダルが自分を元気付けるために、わざと憎まれ口を叩いているのが。  むしろそうでなければ腹が立つばかりだ。  ようやく自分の家が見えてくると、カイは今日一日ルシアの顔を見ていないことに気がつく。 「さき、帰ってて」  ヴィダルにそれだけ告げるとカイの足はルシアの小屋へ向かい始めた。毎日顔を会わせているにもかかわらず、今このときでさえルシアの顔を見たくてたまらなかった。  軽くノックしてから扉を開ける。中は暗く静かだった。もう寝ているのかもしれない。  カイはランプを手で覆って明かりを少し落とし、檻の方へと近づいた。やわらかなオレンジ色のわずかな光が、ルシアの顔へ落ちる。 「……」  カイはしばらくの間、その寝顔を見入っていた。ほとんど白色に近い肌はうっすらと青い血管が透けている部分があり、壊れ物のように脆く感じた。こんな所に閉じ込められているというのに、肌は健やかで傷ひとつない。あまりにも美しく、作り物のようだとカイは思った。カイが渡した毛布を掛けて、静かに寝ている。寝息は小さすぎてこの距離からでは感じられない。  こんなに美しい人が誰の目に触れることもなく、暗い地下に閉じ込められていたんだ。  それに、大切な人まで殺されて。     
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