冷たく優しい手

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 カイはその辛さを嫌というほど分かっていた。あんなに辛いことはない。それでいて自分はどうすることもできない。  じわじわと体の水分が瞼に集まってくるのを感じた。次にまばたきをすれば確実に溢れる。  ――俺のせいで。  ヴィダルには違うと言われたが、自分ではどうしてもその思いを捨てることができなかった。  下を向いたまま、まばたきをした。  大きな水滴がいくつか靴の上に落ちる。 「ごめん……」  カイは何度も呟く。溢れ出るのは涙とその言葉ばかり。いま時間を巻き戻せるなら、きっと何でもすると誓うだろう。  一度溢れた涙が止まる気配もなく、このままでは声を漏らしてしまいそうになるほどの勢いをつけ始めた。カイが小屋を出ようと檻に背を向けたとき、その足はルシアの声によって歩みを止められる。 「カイ」  カイはぎくりとして一瞬動きを止めた。 「体はもういいの?」  労るような声が聞こえる。  カイは急いで涙を拭った。 「起こしてごめん。じゃあ、おやすみ」  作り笑顔を貼りつけて、早急に別れの台詞を言い放った。早くここを去らなくては。いまルシアを見ると罪悪感と嗚咽が込み上げてくる。とてもじゃないが目を合わせて会話をする自信がない。  ルシアはそれを見逃さなかった。 「どうしたの。何か悲しいことがあったのですか?」     
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