冷たく優しい手

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 立ち上がったルシアは檻のすぐ傍により、カイを不安げに見つめている。 「この世の終わりみたいな顔をしてるわ」  その声と眼差しがあまりにも穏やかに、カイの心のすき間を流れていった。それも、すれ違いざまに優しく心臓を撫でて。  カイは思わずルシアの視線を受け止める。案の定涙は溢れてしまった。 「ごめん……」  ルシアは驚いてカイの涙を見つめた。 「なぜ泣いてるの」  苦しかった。  ただ辛かった。  罪悪感を上回るのは、ルシアが悲しんだという事実に対する心苦しさ。それを思うと押し潰されそうなほどの悲しみがカイを襲った。 「ルシアがそこに閉じ込められた原因を作ったのは、俺だ」  彼女の顔を見られない。 「どうして……あなたのせいじゃないわ、本当よ」 「違う、俺は」  涙でつかえて言葉がうまく出てこない。  拭っても拭っても止まらない涙を忌々しく思う。 「万が一そうだったとしても、そんなことはどうでもいいことだわ。私にとっては、あなたが今心を痛めてこんなにも苦しんでいることの方が問題だもの」  カイの目の前を青白い光が閃(ひらめ)く。自分の頬を包むのはルシアの白い手だった。 「悲しまないでカイ。あなたの笑った顔が見たい」  カイは驚いて、その手を咄嗟に掴んだ。  このとき初めてルシアの手に触れた。     
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