2つの苦しみ

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 ヴィダルと契約を結ぶ。その言葉はまるで竜巻のようにぐるぐると渦を巻き、すごい勢いでカイの頭を通り過ぎていった。数々の疑問を乱暴に振り撒きながら。  カイはそれをひとつ拾い、ヴィダルに返す。 「ちょっと待って。それは、お前の寿命を縮めることになるんじゃないのか?」  ヴィダルは驚くほど優しい顔で笑った。 「私は百年前に一度死んでるんだ。君に助けられなければな。今さら寿命が縮んだってどうということはない。それに、私はこうすることをもうずっと前から決めていた」  そう言ったヴィダルの瞳は美しく揺らめく。 「俺、嫌だ」 「カイ、よく考えろ。君に残された時間は短い。これは私が考えうる最高の手段だ。他に方法はない」  この国の人々は危険にさらされる。それを回避する方法はひとつしかないのに、その方法をとれば、ヴィダルの寿命を脅かすことになる。 「お前に死んでほしくない」 「例えば契約を行わずに君が先に死んだとしても、私はできる限りこの国を守ると誓う。ただ、そうしたとしても契約を結んだ後の寿命より早く私は死ぬだろう」  カイは黙りこんでヴィダルの燃える瞳を見つめた。 「他のドラゴンと戦って死ぬ」  カイは今すぐ走って逃げたくなった。この問題を考えることを放棄したかった。結局ヴィダルの言うとおりにするしかないのか。 「死を恐れるな。なにも悲しいことなんてない」     
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