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ルシアはただ黙ってヴィダルの話を待った。
「この国をドラゴンから守る壁。これが君とカイの死後、なくなる。カイはこの国の未来を案じている。この壁がなくなれば悲惨な結果が予想されるから」
ルシアはドラゴンをその目で見たことがなかったが、話だけはこの国に住むものなら誰もが耳にしていた。獰猛で残忍な生物。そして人間を襲う。国の人々が身を守るために様々な武器が開発されたことも、城の兵士達が来(きた)る襲来の日に備えて毎日訓練を重ねていることも知っていた。ただ自分はいつも一番安全な場所にいて、そんな危険な生活とは対極の場所にいたものだから、その恐ろしさを肌で感じたことはなかった。
ヴィダルがそのドラゴンだという。
そして、そのドラゴンから守ってくれていた壁がなくなる。道理はわからないが、とりあえずその言葉を信じて飲み込んだ。
「私達は、いつ死ぬの?」
あまりにも飲み込みが早いルシアを、カイは信じられないという顔でただ見つめた。ルシアの顔には動揺も驚きも浮かんでいない。そして死を受け入れている。
「正確にはわからないが、早くて一ヶ月後。一年は持たないだろう」
その言葉にはカイの方が関心を示した。思ってたよりも随分早い。そう感じた。
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