2つの苦しみ

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「でも、この国を守れる方法がある。 ヴィダル、あなたの目がさっきからそう言ってる」  この暗い地下に長い間閉じ込められていたことで、ルシアは不思議な力でも手に入れたのではないかとカイは思った。自分にはヴィダルの顔を見たってそんなことを読み取る余裕はなかった。口を挟みたい気持ちでいっぱいなのに声がでない。 「この壁の中身ごと、他の場所へ……ドラゴン達の存在しない場所へ移動させたいと考えている。……だけど、それは」 「私も行くわ。この国と一緒に」  ルシアはまるでその事を分かっていたかのように、ヴィダルが言い終わる前にそう言った。ヴィダルの顔に初めて動揺の色が浮かんだ。  カイの腕は震えて拳を握っていた。この不思議な力に精一杯抵抗している。立ち上がりたいと、何かわめき散らしたいと、体を動かそうと戦っている。だがそれもむなしく打ち消されていた。 「それでも、ルシア。君は自由になれないんだ。きみがこの壁を超えれば傷つけられるように、国が移動すれば壁を超えたことになり、……君は命を落とす」  カイは初めてヴィダルに怒りを覚えた。これを言うために、ルシアのところまで来たんだ。先に自分に話されたとしたら、絶対に許さないとわかっていたから。ルシアが拒まないと分かっていたから。     
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