2つの苦しみ

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「わかっています。私はヴィダルの方法に賛同するわ。今さら死ぬことに何のためらいもない。ただ少し、それが早いか遅いかの違い……でしょ?」 「感謝する」  ヴィダルはルシアにそう言うと、頭を下げて敬意を示した。そのあと、顔を真っ赤にして震えているカイの右腕をまたトンと叩く。カイは崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだが、すぐに起き上がってヴィダルの襟首を掴む。ルシアはその様子に息を飲んだ。 「ふざけんなよお前!」 「彼女は納得した」  ヴィダルはいつもの冷静な表情で言ってのける。それがますますカイの怒りを煽った。 「俺は納得してない! そんな方法俺は認めない!」 「それしか方法がないんだ。彼女も言ったように、少し死ぬのが早くなるだけだ」 「黙れ……ぶん殴るぞ」 「構わない、やれ」  カイは泣きたくなって目を伏せた。結局何を選んだとしても、苦しい道しか残されていない。カイはもう一度目を開けると、ヴィダルの顔を見た。  ヴィダルの冷静な顔は徐々に曇り、その眉を落としていく。その目に浮かんだ涙を見るのは初めての事だった。カイは自身の身に宿る炎が、段々と水を散らしたように消えていくのを感じた。  静まり返った小屋に、虚しさだけが影を落としている。カイは掴んでいたヴィダルの服を離す。  苦しいのは自分だけではなかった。     
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